日常業務の「隠れた非効率」をアイデアの種に変える:IT企業PMのための改善視点
はじめに:日常に潜むイノベーションの種
ビジネス環境は日々変化し、IT企業においても、既存の手法だけでは対応しきれない複雑な課題が増加しています。プロジェクトマネージャーの皆様におかれては、自身の問題解決能力の向上に加え、チーム全体のアイデア発想力やイノベーションの促進が求められる場面も多いのではないでしょうか。特に非定型業務における創造性の重要性を肌で感じていらっしゃるかもしれません。
イノベーションや創造性というと、何か特別なブレインストーミングの場や、非日常的な体験から生まれるものと考えがちかもしれません。しかし、実は、日々の「いつもの風景」、特に当たり前として見過ごしている日常業務の中にこそ、解決すべき課題や、それを起点としたアイデアの種が豊富に隠されています。
本記事では、IT企業でプロジェクトマネージャーを務める皆様が、日々の業務に潜む「隠れた非効率」をどのように見出し、それをアイデアの源泉として活用し、具体的なビジネスアイデアや問題解決策に繋げていくかについての視点と方法論を提供します。
「いつもの風景」としての「隠れた非効率」とは
私たちが「いつもの風景」として捉え直すべき対象は多岐にわたります。それは、毎日参加する定例会議かもしれませんし、メンバーとの非公式なコミュニケーションのやり取りかもしれません。あるいは、特定の業務プロセス、資料作成の手順、あるいは使用しているツールの使い方など、日常的に繰り返されるあらゆる活動が該当します。
IT企業におけるプロジェクトマネージャーの日常を例に挙げれば、以下のような場面が考えられます。
- 会議: 長時間化する会議、参加者の多い会議、結論が出ない会議。
- コミュニケーション: メールやチャットでの冗長なやり取り、情報共有の遅延や漏れ。
- ドキュメント作成: テンプレートがない、更新されない、検索できない資料。
- 業務プロセス: 手作業が多い、複数のツールを跨いだ非効率な連携、承認プロセスの遅延。
- ツール活用: 導入した高機能ツールの使いこなしが限定的であること。
これらの状況は、多くのIT企業で日常的に発生している風景であり、ともすれば「仕方がないもの」「こういうものだ」として受け入れられがちです。ここに潜む「隠れた非効率」とは、慣れや無意識によって見過ごされている、改善の余地がある状態を指します。これらの非効率は、単なる時間の浪費に留まらず、チームのモチベーション低下、品質の低下、顧客満足度の低下など、より大きな問題の根源となっている可能性があります。
「隠れた非効率」を見出すための視点と方法
では、どうすれば日常に埋もれた「隠れた非効率」を見出すことができるでしょうか。いくつかの視点と方法論を紹介します。
1. 「なぜ」を問い続ける視点
目の前の業務プロセスや慣習に対し、「なぜこうなっているのだろうか?」「この手順は本当に必要か?」「もっと別のやり方はないか?」といった問いを立てる習慣をつけます。特に、無意識に行っている作業や、疑問に思わずに受け入れているルールに対して、意識的に問いかけることが重要です。この問いかけは、問題の根源を探る論理的な思考プロセスと、既存の枠組みを超えて考える創造的な思考の橋渡しとなります。
2. 客観的な観察と可視化
自身やチームの業務を、あたかも外部のコンサルタントになったかのように客観的に観察します。特定の作業にかかる時間、頻度、関与する人数などをデータとして収集し、可視化してみるのも有効です。例えば、「議事録の作成と共有にどれくらいの時間がかかっているか?」「特定の情報共有までに平均何回のやり取りが発生しているか?」といった問いに対するデータを取ることで、感覚的な非効率が具体的な事実として浮かび上がります。
3. 異なる視点を取り入れる
自分自身の視点だけでは、慣れからくる盲点に気づきにくいものです。チームメンバー、他部門の担当者、あるいは顧客など、異なる立場の人々が同じ業務プロセスをどのように見ているか、何に困っているかを尋ねてみることで、思いがけない非効率が見つかることがあります。多様な視点を取り入れることは、ペルソナの関心事とも合致し、問題の本質を捉える上で非常に重要です。
4. アナロジー思考の応用
全く異なる分野や業界の事例に目を向け、それを自社の業務プロセスに当てはめて考えてみます。例えば、製造業の無駄を排除する考え方(トヨタ生産方式など)をIT開発プロセスに適用できないか、あるいは、小売店の顧客対応の効率化事例を社内ヘルプデスクに応用できないか、といった思考です。異分野の「当たり前」が、自社の「隠れた非効率」を浮き彫りにするヒントとなることがあります。
「非効率」からアイデアを育てるプロセス
非効率を見つけたら、それをアイデアに繋げる次のステップに進みます。
- 問題の明確化: 見出した非効率が、具体的にどのようなコスト(時間、費用、労力)や影響(品質低下、遅延、ストレス)を引き起こしているのかを定義します。問題が明確になればなるほど、解決策としてのアイデアも具体的なものになります。
- アイデア発想とフレームワーク: 定義した問題に対して、解決策や改善策のアイデアを多角的に発想します。創造的思考のフレームワークとして知られるSCAMPERなどが有効です。特に、非効率の文脈では、以下の視点がアイデアに繋がりやすいでしょう。
- E (Eliminate - 排除する): その業務や手順は本当に必要か?なくせないか?
- M (Modify - 修正する): 手順やルールをどう変更すれば効率的になるか?
- R (Reverse/Rearrange - 逆転/再配置する): 順番を入れ替えたり、担当を逆にしたりすることで効率化できないか? ブレインストーミングと組み合わせることで、多様なアイデアが生まれる可能性があります。
- 論理的検証と具体化: 出てきたアイデアを、実現可能性、効果(非効率がどれだけ解消されるか)、必要なリソース(コスト、時間、技術)などの観点から論理的に検証します。プロジェクトマネージャーとしての経験がここで活かされます。最も有望なアイデアを具体的な計画やプロトタイプとして落とし込み、実行可能な形に磨き上げます。
ビジネス応用事例(架空)
具体的な例をいくつかご紹介します。
- 会議の非効率から生まれたアイデア:
- あるプロジェクトチームで、定例会議が常に延長され、参加者の集中力が途切れる非効率が見られました。
- 「なぜ延長するのか?」と問いを立て、議事録のリアルタイム共有や、アジェンダごとの時間配分ルールがないことに気づきました。
- 「議事録担当をローテーションし、クラウドツールでリアルタイムに入力する」「アジェンダごとに厳密なタイムボックスを設定し、時間を過ぎたら次の議題に移る」といったアイデアが生まれ、実行した結果、会議時間が短縮され、次のタスクへの移行がスムーズになりました。
- 情報共有の非効率から生まれたアイデア:
- 異なるチーム間での情報共有が遅く、二重作業が発生する非効率が見られました。
- 「どのように情報が滞留しているのか?」を観察し、特定のファイルサーバが更新されず、関連者への通知が手動になっている点に気づきました。
- 「情報更新をトリガーに自動で関連メンバーに通知する仕組みを開発する」「共有すべき情報の種類ごとに最適なツール(チャット、Wiki、タスク管理ツールなど)を定義し、利用ルールを徹底する」といったアイデアが生まれ、情報の流れが改善され、手戻りが減少しました。
実践へのヒント
日々の業務からアイデアの種を見つける習慣を身につけるための小さなヒントをいくつか提案します。
- 「非効率レーダー」をオンにする: 意識的に「これは無駄ではないか?」「もっと効率的にできるのではないか?」という視点を持つようにします。
- 観察ノートをつける: 気づいた非効率や疑問点を、手帳でもスマートフォンのメモアプリでも構わないので、記録しておきます。後で見返すことで、点と点が線で繋がることもあります。
- 異分野の情報に触れる: 読書やセミナーなどを通じて、IT業界以外の効率化事例や働き方改革の取り組みに触れることで、アナロジー思考のヒントが得られます。
- チームを巻き込む: チームメンバーと「今日の小さな非効率」を共有し合う時間を設けることで、発見の視点を増やし、チーム全体の改善意識を高めることができます。
まとめ
IT企業プロジェクトマネージャーの日常業務には、多くの「隠れた非効率」が潜んでいます。これらは単なる問題点ではなく、見方を変えれば、具体的な改善アイデアやイノベーションの源泉となり得ます。
「なぜ?」と問い続ける視点、客観的な観察、異なる立場からの情報収集、そして異分野からのアナロジー思考といった方法を通じて、日常の風景の中に隠れたアイデアの種を見出すことが可能です。
そして、見出した非効率を具体的な問題として定義し、創造的思考のフレームワークを活用して多様なアイデアを発想し、最後に論理的な検証を経て実行可能な形に落とし込む。このプロセスは、まさにプロジェクトマネージャーのスキルと経験が活かされる領域と言えるでしょう。
ぜひ、今日から自身の日常業務の中に潜む「隠れた非効率」に目を向けてみてください。そこに、プロジェクトを成功に導き、チームの創造性を高めるための小さな、しかし確かな一歩が隠されているかもしれません。