IT企業PMのための「断片」と「未完了」をアイデアの種に変える視点と方法
複雑化するビジネス環境と「未完」の日常
今日のビジネス環境は、技術の進化や市場の変化によってますます複雑になっています。IT企業でプロジェクトマネージャーを務める方であれば、計画通りに進まないプロジェクト、絶えず発生する仕様変更、予期せぬトラブルへの対応など、既存のフレームワークや過去の成功体験だけでは解決が難しい問題に日々直面されていることでしょう。
このような状況下では、論理的な問題解決能力に加え、これまでとは異なる視点から新たな解決策やアイデアを生み出す創造性が不可欠となります。しかし、「創造性」と聞くと、特別な才能や非日常的なひらめきが必要だと感じられるかもしれません。
しかし、私たちの日常業務の中にも、アイデアの種は確かに存在しています。特に、多くの情報やタスクが断片化し、常に何かしらの「未完了」を抱えているITPMの日常こそ、創造性の宝庫となり得ます。本記事では、日々の業務の中で当たり前になっている「断片的な情報」や「未完了のタスク」を、どのようにアイデアの種として捉え直し、具体的な問題解決やイノベーションに繋げるかについての視点と方法をご紹介します。
「断片」と「未完了」に潜む可能性
プロジェクトマネージャーの日常は、情報とタスクの洪水です。飛び交うメール、チャットログ、議事録のメモ、顧客からの断片的なフィードバック、途中段階の設計資料、そしてタスク管理ツールに並ぶ無数の「未完了」項目。これらは往々にして、単なる処理すべきタスクや見落としがちな情報として扱われます。
しかし、これらの「断片」や「未完了」は、実は現状に対する何らかの示唆を含んでいます。それは、システムの「見えない継ぎ目」だったり、プロセスの「隠れた非効率」だったり、顧客の「満たされていないニーズ」だったりするかもしれません。単体では意味をなさないように見える断片も、異なる文脈で捉えたり、他の断片と組み合わせたりすることで、新しい意味や価値を生み出す可能性を秘めているのです。
「未完了」も同様です。なぜそのタスクは未完了なのか?技術的な障壁か、コミュニケーション不足か、そもそもタスク定義が不適切だったのか。未完了の背景を探ることは、問題の本質に迫る手がかりになります。また、一度着手したが中断されたアイデアやプロトタイプには、当時の状況では実現不可能でも、現在の技術や知識をもってすれば異なる展開が見込める可能性があります。
重要なのは、「断片」や「未完了」を単なる「残骸」としてではなく、「まだ繋がれていない点」や「発展途上の可能性」として、肯定的に捉え直す視点を持つことです。
「断片」と「未完了」からアイデアを見つける具体的な方法
では、具体的にどのようにしてこれらの日常に散らばるアイデアの種を見つけ、育てていけば良いのでしょうか。いくつかの方法をご紹介します。
1. 意識的な「収集」と「記録」
まず、日常に存在する「断片」や「未完了」を意識的に捉え、記録する習慣をつけましょう。
- 断片ノート/デジタルスクラップ: 会議中のふとした発言、チャットでの非公式なやり取り、顧客からの短い質問、通勤中に目にした広告のキャッチフレーズなど、業務に関連しそうな、あるいは単に気になった断片的な情報をツール(Evernote, OneNote, Notionなど)や物理的なノートに記録します。後で見返したときに意味が分かるように、簡単な文脈も添えると良いでしょう。
- 「未完了リスト」の拡張: タスク管理ツールの未完了リストを見る際に、「なぜこれが未完了なのか?」や「このタスクは何を示唆しているか?」といった問いを意識的に投げかけます。可能であれば、問いとその答えの候補をタスクのメモ欄に追記します。
- スクリーンショット/写真: Webサイトの興味深いUIの一部、オフィスで見かけた改善のヒント、資料の気になる一文など、視覚的な断片も積極的に収集します。
これらの収集活動は、後で「点と点をつなぐ」ための材料を蓄える行為です。
2. 「関連付け」と「組み合わせ」の思考
集めた「断片」や「未完了」リストを定期的に見返します。そして、異なる情報同士を意図的に関連付けたり、組み合わせたりすることを試みます。
- マインドマップ/ホワイトボード: 集めた断片や未完了事項を書き出し、キーワードを抽出し、それらを自由に繋げてみます。業務課題、技術トレンド、顧客ニーズなど、異なるカテゴリの情報を隣り合わせに配置し、予期せぬ関連性を見出します。
- 強制連想: 全く関係のないと思われる二つの断片(例: ある顧客からのクレーム内容と、最近読んだ異分野の書籍の一節)を結びつけて、何か新しい洞察が得られないか考えます。
- 組み合わせ思考のフレームワーク応用: SCAMPERのような既存のアイデア発想フレームワークの要素(Combine: 組み合わせる、Adapt: 応用する)を、「断片」や「未完了」に応用します。例えば、「Aの未完了タスク」と「Bで得られた断片的な顧客フィードバック」を組み合わせて、新しい機能アイデアを生み出す、といった具合です。
3. 「問い直し」と「深掘り」
特定の「断片」や「未完了」に焦点を当て、多角的に問いを投げかけ、深掘りします。
- 「なぜ?」を繰り返す: 特定の未完了タスクや断片的な問題について、「なぜそうなっているのか?」「なぜこれが重要なのか?」と「なぜ」を5回繰り返すことで、根本原因や本質的な意味を探ります。
- 異なる視点からの観察: その「断片」や「未完了」を、顧客の視点、開発者の視点、営業担当者の視点、競合他社の視点など、多様な立場から見てみます。
- 抽象化と具体化の往復: 個別の断片的な出来事から、より一般的な問題やニーズを抽象化します。次に、その抽象化された問題に対して、収集した他の断片や未完了事項を具体的な解決策のヒントとして活用できないか検討します。
4. 「非連続」な時間の活用
論理的なタスク処理とは切り離して、「断片」や「未完了」について考える時間を意図的に設けます。
- 「断片レビュー」タイム: 毎日または毎週、数分間でも良いので、集めた断片ノートや未完了リストを眺める時間を作ります。この時間は、何か特定の成果を出すことよりも、情報同士の関連性や新しい見方に気づくことを目的とします。
- 散歩や休憩中の思考: 通勤中、昼休み、休憩時間など、業務から少し離れた時間帯に、収集した断片や未完了事項を頭の中で反芻してみます。リラックスした状態の方が、予期せぬ繋がりが見えやすいことがあります。
ビジネス応用事例
これらの視点と方法を、IT企業PMの日常にどのように応用できるか、具体的な例を考えてみましょう。
- 事例1:複数のプロジェクト横断での課題解決 あるPMが複数のプロジェクトを兼任しているとします。それぞれのプロジェクトで発生している小さな「未完了」タスク(例:「〇〇機能のEdgeケース対応」「△△顧客からのフィードバック反映」)や、チームメンバーからの断片的なチャットでの質問(例:「××の処理って不安定になる時ありますか?」)を収集・記録していたとします。これらの断片を並べてみると、実は特定の共通モジュールに起因する課題であることに気づきました。個別のプロジェクトでは単なるバグとして処理されがちだった問題が、横断的な視点で見直すことで、根本的な設計課題として浮かび上がり、共通モジュールの改善という大きなアイデアに繋がりました。
- 事例2:顧客からの「つぶやき」を新機能アイデアに 顧客サポートチームとの情報共有の中で、正式な要望ではない、顧客からの断片的な「使いづらい」「こうだったらいいのに」といった「つぶやき」を記録する仕組みを導入しました。これらの断片を定期的にレビューし、「関連付け」や「問い直し」を行った結果、特定の操作ステップにおけるユーザーの潜在的なストレスを発見。この「未完了」のニーズに対し、UI改善やショートカット機能の追加といった具体的なアイデアが生まれ、サービスのユーザー満足度向上に繋がりました。
- 事例3:過去のプロジェクト資産の再活用 数年前にPoCで中断されたプロジェクトの「未完了」部分(開発途中だった特定のアルゴリズム、作成されたが利用されなかったデータセットなど)を改めてレビューする機会を設けました。当時の技術的制約や市場状況では実用化に至りませんでしたが、現在のクラウド技術や機械学習ライブラリの進化という「断片情報」と組み合わせ、「問い直し」てみた結果、全く新しいビジネス領域でその資産を活用できる可能性が見つかりました。
実践へのヒント
「断片」と「未完了」からアイデアを生み出す力は、特別な能力ではなく、日々の意識と習慣によって育まれます。
- まずは、意識的な「収集」から始めてみてください。手帳の片隅にメモを取る、スマホのメモアプリに箇条書きで記録するなど、小さな習慣から始められます。
- 週に一度でも良いので、集めた断片を見返す時間を作りましょう。完璧な分析を目指すのではなく、眺めているうちに何か気づきがないか、という軽い気持ちで臨むことが大切です。
- チーム内で、業務中に感じた小さな「違和感」や「未完了」について気軽に共有する場を設けるのも有効です。他者の視点が加わることで、自分だけでは気づけなかったアイデアが生まれることがあります。
まとめ
IT企業PMの日常は、「断片」と「未完了」に満ちています。これらを単なる処理すべき対象として見るだけでなく、創造的な問題解決や新しいアイデアの源泉として捉え直す視点を持つことが、変化の速い現代において非常に重要です。
日常の中に散らばる小さな「点」を意識的に収集し、異なる「点」と「点」を関連付け、組み合わせ、そして多角的に問い直すこと。このプロセスを通じて、見慣れた風景の中に隠された可能性を発見し、それを具体的なビジネス価値へと繋げることができるはずです。
「未完」の日常は、停滞ではなく、未来に向けた創造の余白です。ぜひ、今日からあなたの日常の「断片」と「未完了」に、新しい視点を向けてみてください。